「来てくれた・・・」(1)
福島20キロ圏内で、動物の保護活動をしながら写真を撮りためていた太田さんは、しばしば、お腹を空かせた犬やネコに餌を与えながら移動していました。
一度でも人に飼われた犬は、自分をアピールする方法を知っています。
それは、飼い主に目いっぱいの愛を注いでもらうためだったり、美味しいおやつをたくさん貰うために、ペットが自分なりに編み出した、一種の「売り込み術」です。
この日、太田さんが出会った犬は、茶色の中型犬。
太田さんを見つけると、警戒しながらも自ら近づいてきました。
早速、太田さんが持参したフードを与えると、食べるには食べますが、それよりもスキンシップを求めてきたといいます。
「こっちはいいから、はやくお食べ」
そう言って器を差し出しても、耳をペタンと寝かせ「撫でて、撫でて」と、嬉しそうに手に頭を押し付けてくるのだそうです。
「寂しかったんだよね・・・」
そしてそれは、この犬に限ったことではありません。
どの犬も、人を見かけるとまずスキンシップをせがむのです。
ご飯より、人の温もりを欲しがって・・・。
犬という動物の悲しい性は、ときに滑稽なほど悲しいものです。
そのことをどれだけの人が知っているでしょうか・・・?
「来てくれた・・・」(2)
「何とかして飼い主の元へ帰してあげたい・・・でも・・・ごめんな・・・」
太田さんの本来の目的は別にあります。車に乗せて連れていくことは出来ません。
痛む胸を抑えながら、太田さんは車を走らせたそうです。
さらに、その先々で出会う動物たちと辛い別れを繰り返しながら、太田さんはシャッターを切り続けます。
今日つないだ命も、間に合わなかった命も平等に。
涙で滲む目を擦りながら、ファインダーを覗き「ごめんよ・・・」と唸るように呟きながら、太田さんは動物たちの命を見つめ続けたのです。
太田さんが福島20キロ圏内で感じたこと。それは、ペットたちの「声」でした。
「来てくれた・・・」
嬉しそうに近づいてくる犬も、遠巻きに見つめるネコも、人間を見つけると、目に光を宿すそうです。
飼い主でなくても、すぐに一人に戻るとしても、それでもペットたちは、誰も恨んではいないのです。
「どうして・・・?」
「何が起きたの・・・?」
「誰か教えてよ・・・」
ただ、答えが欲しくて、大好きな人に会いたくて。
ペットたちは待っているのです・・・。