「ずっと、待ってた・・・」(1)
2011年5月
一時帰宅を受けて自宅へ戻る人々の心中は、とても複雑だったと思います。
慣れ親しんだ我が家。
それでも、その目に映る光景は以前とは様変わりしていて・・・。
津波に襲われた町は跡形もなく、自分の家の場所を探すのも苦労したといいます。
とても言葉では言い表せないような、深い想いに皆が言葉を失います。
崩れた瓦礫の山、半分だけになった車の残骸、打ち上げられた船も片付いてはいません。
ある人は思い出の欠片を探しに、また、ある人は連絡の取れない家族との手掛かりを求めて・・・。
そんな中、かろうじて津波の被害を免れても、原発事故の影響で思うようには自宅に帰れなかった人たちに同行した記者さんがいました。
旦那さんと2人で暮らしていた高齢のご夫婦の目的は、置いてきた9匹のネコを迎えに行くこと。
震災があった日、ご夫婦はネコを連れていこうとしましたが、突然の騒ぎにネコたちはパニックを起こし、散り散りに逃げてしまったそうです。
何とか探し出そうにも、行政の人たちに「ペットは置いていって下さい!」と言われ、仕方なくネコを置いてきたそうです。
「すぐに帰れますから」
「あとで様子を見に来れますから」
行政の人の言葉を信じ、家の中に居るのは間違いない、落ち着いたら迎えにくればいい。
そう考え、飼い主は家を出たのです。
「ずっと、待ってた・・・」(2)
1日、2日、3日・・・時間はどんどん過ぎていきます。
「いつ帰れますか?」
「家に帰してください」
飼い主の想いは届かず、時間ばかりが過ぎていきます。
「早く・・・早く・・・!」
「あの日」から2か月・・・。
ようやく帰れた我が家。
急いで玄関の鍵を開け、飛び込むように家の中へ!
家の中はシンと静まり返っています。
部屋の中は、長いこと締め切っていた匂いと散らかったゴミ、そして生臭いような異臭。
マスクを着けていなければ、とてもいられる状況ではなかったそうです。
「ミーナ・・・?・・・クロ・・・?・・・ブチ・・・?」
小さくネコを呼ぶ飼い主の声。
「・・・・・。」
部屋の奥で黒い塊を見つけて近寄ってみると、そこには血だらけのネコの死骸。
可愛い声で甘えてきた「あの子」の姿がそこには無く、身体には無数の傷跡が残り、変わり果てた9匹のネコの死骸が、あちらこちらに散らばっていました。
おそらく、飢えと渇きに耐えかねたネコたちが共喰いしたものだと思われます・・・。
「・・・ごめんね・・・」
なかば白骨化した部分もあるネコの骨を見つめながら、震える声で呟く飼い主に、掛ける言葉は見つからなかったといいます。
「ずっと、待ってたよ・・・でも、待ちきれなかったんだ・・・」
ふと耳元で、そんな声が聞こえた気がしたと、同行した記者さんは語っていました。